ペコリーノはヘンナ町を出て、キガオカシ山を登った。
この山には医者という名の裂義屎(サギシ)がいる。しかし、医者が裂義屎であることを知っているのは、この山ではペコリーノだけだ。そして、その医者に騙されている人のことを、この世界ではシェーブルと言う。
ペコリーノが山道を歩いていると、シェーブルが道に倒れているのを見た。
ペコリーノはシェーブルのもとに駆けつけて、彼の体を起こしてあげた。
すると、シェーブルは言った。
「薬が切れてしまった。薬だ。薬をくれ。
身体中が痛くて苦しい。私の病気は治らない。私は50年間、薬を飲み続けているのに。
医者は私に言った。『あなたの病気は治る病気ではない。だからあなたに、この薬を授けよう。この薬を飲めば永遠の苦しみと痛みから解放されるが、永遠の悩みと不安があなたに付きまとうことになる。しかし、苦しみから解放されるのだから、良いではないか。苦しみはあなたの悩みだろ。あなたの痛みはあなたの不安なのだから。』
この薬がなければ私は苦しみから解放されない。
薬は宝だ。私は、神から最高の宝を頂いたのだ。」
ペコリーノは言った。
「あなたは『この病気は治らない。治る病気ではない。病気と一生付き合っていかなければならない。薬で症状を抑えるしかないのだ。医者もそう言っている。』と言う。
しかし、はっきり言っておく。
治らない病気ならば、薬を飲む必要がないではないか。あなたたちは、痛みや苦しみを抑えるためだと言っているが、結局今も苦しんでいるではないか。
その薬を飲んで、少しでも苦しみから解放されたと言うのか。
はっきり言っておく。
あなたの解放された苦しみは、その百倍となってあなたに返ってくるだろう。あなたの信頼しているものがあなたを蝕むことになる。
空腹を満たそうと、あなたは汚れた食べ物ばかりを食べて満足し、心を満たす。しかし、腹が満たされても、あなたの身体が満たされることはなく、あなたの身体は傷ついていく。
あなたは、この意味が分かるか。」
シェーブルは言った。
「あなたの言っていることは分かりません。どうして医者が悪いものを出しましょう。私の宝を毒扱いしないでくれ。」
ペコリーノは言った。
「好きにしなさい。あなたは盲人で、耳の聞こえない人だから、私の言っていることが分からないのだ。目と耳が治るまで、そこで寝ていなさい。あなたの神があなたを連れていくだろう。」
ペコリーノがそう言うと、シェーブルは静かに眠りに落ちた。
(第3話につづく)
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