ペコリーノはアタマオカシ山を下り、ヘンナ町に入った。
この町には医者という名の搾偽巳(サギシ)がいる。しかし、医者が搾偽巳であることを知っているのは、この町ではペコリーノだけだ。そして、その医者に騙されている人のことを、この世界ではシェーブルと言う。
ペコリーノが街中を歩いていると、シェーブルに出会った。
シェーブルは何やら怪しい笑みを浮かべている。
ペコリーノは思った。「また、戦いが始まるのか。これは長期戦になりそうだ。気を引き締めるのだペコリーノ。」
ペコリーノは彼と話すのが嫌いだった。なぜなら、彼と心情と考えが全く合わず、話が噛み合わないからである。それによって、疲れ果ててしまうのだ。
そして、シェーブルは彼にイチャモンを言うことが好きだった。シェーブルは彼の欠点や弱点を見つけて、隙があれば蹴落とそうとしている。
シェーブルは早速言った。「薬が毒というのならば、医者は何を勉強してきたというのか。彼らは偉大な神なのだから、そんな悪い物を出すわけがないだろ。薬は宝だ。毒扱いするな。」
これは、シェーブルの口癖だ。彼にとって医者は神であり創造主なのだ。だから、医者や薬のことを糾弾するペコリーノのことをひどく憎んでいる。
そして、ペコリーノは言った。
「あの医者どもの何が偉いというのか。
彼らから薬を取り上げてしまえば、何もできないただの人間ではないか。
薬に雇われ、薬で食べている、ただの人間だ。鼻で息をしているだけの人間に過ぎない。
彼らには、それしかないのだから、必死であなたに薬を飲ませようとしてくる。
薬が悪ければ、彼らが薬のことを悪く言うとでも思うのか。
ではあなたたちは、自分の売っている商品のことを悪く言うのか。自分の売っている商品だから、悪いようには言わず、むしろ、メリットばかりを主張するのではないか。
それと同じく、彼らの商品は薬なのだから、あなたに薬を飲ませようとしてくるのは当然のことではないか。悪い物でも、彼らの売り物はそれしかないのだから、彼らはそれを売ろうとしてくる。
その悪い物をいかに、良い物かのように必死でアピールするのが、この世の汚い商売というものではないのか。
あなたたちはよく、『あなたは専門家ではないのだから分かるわけがないだろう』と言う。
ではあなたたちは、自分の専門としていること以外のことは何も分からないと言うのか。
例えば、明らかに腐っている食べ物を見て、あなたは、『これは自分の専門分野ではないから腐っているかどうかは分からない。専門家に見てもらわねば。』と言って、食べ物が腐っているかどうかも分からないのか。
あなたの頭は硬い。どうしてもっと広い視野で、物事を深く考えることができないのか。薬に囚われ、薬に依存している者たちよ。」
シェーブルは言った。「あなたは『この薬は有害で飲んでも意味がないどころか、治る病気も治らなくなってしまうから、今すぐ飲むのは止めなさい』と、人々に言いふらして、医者が出す薬を勝手に減らしている。あなたは責任を取れるのか。どう責任を取るつもりなのか。」
医者が出す薬は大量で、その診断もいい加減なものである。そのため、ペコリーノはいつも、薬の危険性をあちこちで言い広めながら、人々の無駄な薬を減らしてあげているのだ。
シェーブルはそれが気にくわない。
しかし、ペコリーノは言った。
「人々は『そんなに薬を減らしてあなたは責任を取れるんですか』と言う。
しかし、はっきり言っておく。
私がしているこの行為は本当ならば、 医者がしなければならないことだ。
医者が責任を持って患者の無駄な薬を省いてやらなければならないのに、あまりにも彼らが無能だから、仕方なく私がやってあげているのだ。そのことを忘れないで欲しい。
きちんと患者の身体を労り、大事に見てくれないことが、どんなに辛いことか。
叫べない身体が悲鳴をあげているではないか。あなたたちは、かわいそうとは思わないのか。
医者が果たすべき責任を放棄して全くやらないから、私がその責任を代わりに負って果たしているのだ。
しかし、あなたたちにはこの意味が分からない。地獄に行っても分かることはないだろう。」
ペコリーノは続けて言った。
「あなたたちは悪いことを良いこととし、良いことを悪いこととすることに非常に長けている。
お前についている毒は、頭のてっぺんからつま先まで、全てが猛毒にまみれている。そして、お前が吐く息、放つ言葉、その全てに毒が含まれており、清いところは何一つ無い。
立ち去れ、汚れた悪人共よ。お前が休まる場所は何一つ無い。ただ地獄と、永遠の苦しみが、お前たちの行き着く場所だ。」
シェーブルは去った。
(第2話につづく)
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